同人ノベルゲーム界隈ではとても有名な作品。
2019/8/12に開催されたコミックマーケット96での頒布が製品版の初出。
その後BOOTHやDMM GAMES、Steamなどでもリリースされました。
ちなみに僕はSteamでプレイ。
王道のミステリーノベルなのですが、驚くべきは個人製作であること。
シナリオは重厚でCG数も多く、同人ゲームとしてはとてもクオリティが高いのですが、なおかつ一人で全部作っているというのだから脱帽です。
ストーリー本編+EXシナリオまでクリアしたので、感想を兼ねてレビュー記事を書きます。
| ジャンル | ミステリーアドベンチャー |
|---|---|
| ハード | PC(Windows) |
| 発売日 | 2019年8月12日 |
| 開発元 | 鬼虫兵庫(個人) |
| 発売元 | TABINOMICHI |
| プレイ時間 | 8時間程度 |
どんなゲーム?
ビジュアルノベル形式で描かれるミステリー。
ニューヨークで探偵業を営む主人公の池田 戦(いけだ せん)は、エイダ・ヒギンズからの依頼を受けて絶海の孤島「シロナガス島」を調査することに。
臨時助手として同行した少女、出雲崎 ねね子とともに、シロナガス島にまつわる謎を解き明かしていく。

2015年の11月に制作を開始し、2017年8月のコミケで体験版となる「DEAD END ver.」を頒布。
2019/8/12のコミックマーケット96で正式にリリースとなりました。
価格はなんと、500円。
同人ゲームとしてはそれほど珍しくない金額ですが、このクオリティを考えると安い。安すぎる。
しかもセールの時はさらに半額になってたりする。
価格について、制作者の鬼虫兵庫さんはインタビュー記事で以下のようなことを仰っていました。
ゲームの値段と販売数に関する個人的な考えとして、ADVの場合、仮に500円で1万本売れたゲームを1000円にしても同じ売上げを維持するのは難しくて、恐らく、1000円にするとその売上は10分の1くらいに落ち込んでしまうと思います。その為、余程に強みがない限り、インディーゲームの最適収益分岐点は500円くらいなのではないかと考えています。
IGN Japan「完全個人の開発者が、いかにして2万本のヒット作をなしえたか――『シロナガス島への帰還』開発者インタビュー」(https://jp.ign.com/return2shironagasu/50908/feature/2)
同人ゲームとして異例のヒットとなった要因の一つには、この価格設定もあると思います。
手に取りやすいのは大事。
シナリオを彩る個性的なキャラクター
ビジュアルノベルの面白さの大部分を占めるのはやはりシナリオ。
ですが、シナリオが面白いかどうかはある程度読み進めないとわかりません。
逆に言えば、どれだけ面白い話でも、それを知る前に飽きてしまっては意味がない。
つまり導入部分でいかにプレイヤーを引き込むかが重要なんじゃないかな、と僕は思います。
では、その要素とは何か。
様々あるとは思いますが、このゲームに関して言えば、間違いなくキャラクターです。
この作品の大きな魅力、一癖も二癖もある登場人物について解説していきます。
天才コミュ障、出雲崎ねね子
ゲームを開始してまず強く印象に残るのが出雲崎ねね子。主人公の相方です。
完全記憶能力を持っており、一度見たものは絶対に忘れない。
20以上の言語を話すことができ、プログラミングや機械工学も天才レベル。
欠点は壊滅的なほどのコミュ障と陰鬱な性格。
という、はちゃめちゃな設定の彼女。
この盛りに盛った設定が強いフックになっていて、プレイヤーの興味を引きます。

これだけ詰め込んでおきながら、不思議と人物像に違和感がないのも凄い。
むしろ言動がとても利己的(言い換えれば人間的)なのでプレイヤーが感情移入しやすいキャラクターになっています。
この作品はミステリーですから、事件が起きれば当然主人公は謎を解き明かそうと奮闘しますね。
ですが、本来人が死ぬような事件が起きたら「助かりたい」「死にたくない」と思うのが普通。
僕も絶対そうなります。
そういう意味で、出雲崎ねね子は普通の少女です。
終始保身を第一に考えていて、我々一般人の感覚に一番近い。
だから感情移入しやすいんですよね。
実質、彼女が主人公と言っても良い。
頼れるおじさん、池田戦
一方、本来の主人公である池田戦。
探偵として活動する彼は、何度も危険な事件に巻き込まれた経験があるようで、今回のような非日常的な出来事にもある程度慣れています。
非常時にも冷静に考えることができ、危機的状況であっても軽口を叩ける余裕がある。
また、身体能力も高く、銃の扱いにも長けている。
いわゆる「主人公」的な主人公です。
危機的状況でも頼りになる彼の存在はプレイヤー自身にも勇気を与えてくれます。
二人の主人公によるバランスの良いストーリーテリング
池田戦と出雲崎ねね子。
凸凹な二人の組み合わせがとても魅力的です。
出だしから小気味良いテンポで会話を繰り広げていく様子は、さながら漫才。
会話のテンポに乗って心地よくシナリオを読み進めていけます。

また、ストーリーテリングにおいても二人のバランスが絶妙。
池田戦がプロとして捜査を進める一方で、出雲崎ねね子は一般人として異常事態に恐怖します。
漫画でもアニメでも「主人公が強すぎて緊張感がなくなっちゃったな…」という経験、皆さんもあるのではないでしょうか。
このゲームは非常に頼れる主人公でありながら、ちゃんと緊張感が持続します。
それは出雲崎ねね子が弱者でいてくれるから。
池田戦が恐れを物ともしない頼もしい行動をとっている裏で、出雲崎ねね子がちゃんと驚いたり怖がったりしてくれるので、作中の「異常」に慣れてしまうことがないのです。
真相を解き明かすための勇気と、得体のしれない状況への恐怖。
プレイヤーに湧き上がる、この相反する感情が二人の主人公によって上手く表現されているように思います。
この絶妙なバランスのおかげで、話に置いて行かれることなく感情移入できるつくりになっているとも感じました。
あと余談ですが、個人的には「おっさんと少女」という組み合わせがとても良いです。
それだけでもプレイする価値あり。
ノベルゲームとしてのクオリティの高さ
当たり前ですが、ノベルゲームは小説ではないんですよね。
ビジュアルノベル、サウンドノベルと言われるように、イラスト、音楽、文章が合わさってできるのがノベルゲームなんです。
大雑把にいえば、情景描写はイラストで、心理描写は音楽で表現できるので、文章で書く必要はないわけです。
これが小説との大きな違いじゃないでしょうか。
究極的には、ノベルゲームにおける文章は会話と独白だけで良いとさえ言えます。
あえて小説に近い形にしている作品ももちろんありますが、個人的にはビジュアルとサウンドによる表現を最大限に活用してこそ、ノベルゲームにしかできないゲーム体験が生み出せるのではないかな、と思います。
この『シロナガス島への帰還』という作品は、「ノベルゲームとしての完成度の高さ」が個人的なお勧めのポイントです。
イラストで表現できることは背景やCGに任せていますし、BGMやSEによる演出も効果的でした。
特にイラストにはとても手がかけられている印象です。
要所でCGを差し挟んでいるのですが、その数が膨大。
そのため、同じ絵を使いまわすことが少なく、視覚的に飽きが来ません。

また、立ち絵やCGでキャラクターが瞬きをする演出も非常に良かったです。
些細な演出ですが、これがあることで、ただの「絵」ではなくて「生きている人物である」という認識が強化されるんですよね。
同時に「話をしているこの瞬間も時間が経過している」ということが無意識に実感でき、これも臨場感の演出に一役買っています。
イラストにしろ音楽にしろ、プレイヤーを楽しませるための細かい配慮が行き届いているのも、プレイした人たちからの高評価の理由の一つだと思います。
繰り返しますが、これで個人製作だというのですから、本当にすごいことです。
アドベンチャー要素について
ここまで読んでいただいてわかる通り、個人的には大満足のゲーム。
ですが一応、プレイしていて感じたマイナス面も記しておきます。
このゲーム、要所に「実際に自分でクリックして調査する」というアドベンチャーパートを入れているのですが、これがあまり有効ではないように感じました。
そう思った理由は大きく二つあります。
一つは、調べられる箇所を全部調べないと先に進まないこと。
すべてのシーンがそうというわけではありませんが、シーンによっては調べられる箇所をすべて調べないと先に進みません。
(正確にはすべての箇所を調べる必要はなかったのかもしれませんが、少なくとも私はそう感じました)
もう一つは、同じところを何度もクリックしないといけないこと。
アドベンチャーパートでは、同じ箇所をクリックすると何度かメッセージが変わります。
その箇所に対する調査の進行度を表しているのだと思いますが、一つ目の要素と合わさることによって、「とりあえず全部の箇所を、メッセージがループするまでクリックし続ける」という作業になってしまいました。

単なるミニゲームや箸休めのようなものだと割り切れば良いのですが、せっかくのアドベンチャー要素が義務的になりがちで、少しもったいなく感じました。
ただ、場面によっては時限付きだったり、クリックする場所や順番が重要だったりとゲーム性の高いシーンもあり、それはとてもよかったです。
作中のキャラクターの緊張感がゲーム体験として感じられ、より深い没入感に繋がっていた印象。
まとめ
肝心のシナリオについてはどうしてもネタバレになりそうなので控えましたが、「最初から最後まで飽きずに楽しめた」ということだけはお伝えしておきます。
気になった方は是非プレイしてみてください。
ミステリーとしての歯ごたえもあって、場面によってはちゃんとプレイヤーの推理力が求められるます。
これからプレイする方は得られた情報をメモしながら読み進めていくと、より楽しめるかもしれません。
また、現在続編『遙かなる円形世界(仮題)』を制作中とのことです。
リリース時期などは未定ですが、今から楽しみです。
公式HPで体験版を配布中。


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