希望に満ち溢れた、とてもハッピーな映画。
前向きな気持ちになれます。
料理と料理人という題材ではあるけど、その実、映画と映画監督の在り方を描いた、ジョン・ファブローのドキュメンタリーといっても過言ではない映画。
どんな映画?
2014年のアメリカ映画。
監督はジョン・ファブロー。
ジョン・ファブローといえば、最近ではアベンジャーズでニック・フューリーの部下であるハッピーを演じていることで有名かもしれません。
今はもう知らない人のいないアベンジャーズのシリーズ、いわゆるMCUの記念すべき第1作目「アイアンマン」の監督でもあります。
そのつながりで、この映画にはいろいろなMCU俳優が出演しているのも見どころのひとつ。
スカーレット・ヨハンソンやロバート・ダウニーJr。また彼らに比べると少しマイナーですが、アントマンで主人公の元妻の旦那を演じていたボビー・カナヴェイルも2番手シェフの役として登場していました。
さて、友情出演の話はこれぐらいにして。
この映画はですね。映画監督としてのジョン・ファブローの苦悩と葛藤を表現した映画だと言われています。
バックボーンを知ると、また違った見え方をするのが映画作品の面白いところ。
この記事では、そのあたりも含めて解説していきます。
SNSの拡散力と世論の影響力
ロサンゼルスで高級レストランの料理長を務めるカール・キャスパーは、日々新しい料理の研究を怠らない熱心な料理人。
当然料理の腕も抜群です。
ですが、彼は雇われの身。
レストランで働く以上、決められた料理を変わらぬクオリティで出し続けなければならず、そこに自分の新しい料理を出す余地などありません。
新作を出したいと言っても、オーナーから却下されてしまいます。
そんな中、レストランに訪れた一人のグルメ評論家が、彼の料理に対してとてつもない酷評をします。
カールはオーナーに言われたとおりいつもと同じメニューを出しただけなのですが、それでも一流の料理人ですから、自分の料理に対して当然プライドがあります。
感情を抑えきれなかった彼は、息子から教えてもらったTwitterを通して、自分の料理を酷評した評論家に暴言を吐きます。
ここで彼はミスを犯します。
個人宛のメッセージを送ったつもりで、他のユーザーから閲覧可能なリプライをしてしまうんですよ。
無知って怖いですよね。

世界の人々に自身の暴言を公開してしまったカール。
それを知ってもなお評論家との暴言の押収は続き、最終的に「新作を食わせてやるから今夜店に来い」と宣戦布告をする事態に。
ですが、そんなことをオーナーが許すはずもありません。
新作は出せず、前回と変わらない料理を食べることになるグルメ評論家。
そして彼に対して怒りのままに暴言をぶつけるカール。
「フォンダンショコラは中がトロトロなんだよ!」と、手で握りつぶしながら熱弁する姿は圧巻です。
で、この大暴走の一部始終が、他のお客さんから撮影されてたんですよね、動画で。
現代でも良くあるやつです。「レストランにやばい人いた」みたいなやつ。
動画は瞬く間に拡散され、主人公は一躍有名人に。
店を辞め、再就職先を探すも見つからず、途方にくれてしまいます。
物語に込められたジョン・ファブローの想い
ここまでの展開、単純に物語としても面白いんですが、それ以上に重要なのは、ジョン・ファブローの体験談であるということ。
といっても、彼は料理人ではありません。映画監督です。
そう。
この物語の料理を、映画と置き換えて考えてみてください。
ジョン・ファブローは2008年に「アイアンマン」の監督を務め、大ヒットを飛ばします。
しかしその後に続く「アイアンマン2」では、世間から酷評を受けてしまいます。
マーベルシリーズという強固な枠組みにおいて、彼は自分の色は出さず、大衆にウケる作品作りをしました。
出資者が、世間がそれを望んでいるから。
しかしそれゆえに酷評を受けてしまうのです。
まさにこの映画の通りというわけです。
自分の作りたいものを作る
では物語はここからどのようになっていくのか。
ここからもやはり、ジョン・ファブローの追体験という体を取った作りになっています。
ネットでの悪評のせいで再就職先も見つからず、途方に暮れるカールに、マイアミから再スタートをすることを提案する元奥さん。
彼はもともと、マイアミでのフードトラック(屋台)から始めて高級レストランのシェフまで上り詰めた料理人だったんですね。
元奥さんの元旦那(紛らわしいっすね)から古いフードトラックを譲ってもらえるから、それを使って今一度やり直してみなさいと。そう言うわけです。
余談ですが、この元旦那さんを演じていたのがロバート・ダウニーJr。話によると、ジョン・ファブローのためにほとんどノーギャラに近い契約で出演してくれたそう。泣ける話です。
しかも、トニースタークと同じような役で。
こういう嫌味な成功者の役めっちゃ似合いますよね。
現地で屋台販売を始めるカール。
しかもここで、レストランで一緒に働いていたマーティンが駆けつけてくれます。これは嬉しい。
ここから、息子も含めて3人でフードトラックに乗ってロサンゼルスまで帰る旅が始まるんですが、これがめちゃくちゃ楽しそうなんですよ。

求められるものを作るんじゃなくてね。
自分が作りたいもの、自分が良いと思うものを作る。
だから楽しい。だから人々に伝わる。
この映画からの一番のメッセージはこれなんです。
もう皆さんもわかっている通り、これがそのままジョン・ファブローの映画制作に対する思いなんですよ。
フードトラックによる旅が始まってから、目に見えて笑顔が増えていくんです。
もともとあまり父親らしい接し方ができていなかった息子との関係も、一緒に料理を作るうちに良好なものになっていきます。
で、この息子がね、大活躍するんですよ。
若者はやっぱり新しいものにも詳しいわけで、SNSを完璧に使いこなして店の宣伝をします。
店の現在地を共有したり、写真を上げたり。
今は亡きサービス「Vine」で動画を上げたりもします。
劇中でも言われていましたが、まさに広報担当といった感じ。
互いが互いを認め合って共通の目的に向かっていく様には心打たれますね。
僕の好きなやつです。
フードトラックの旅で得たもの
やがて旅は終わり、家にたどり着きます。
旅の中で息子がとっていた1秒動画の繋ぎ合わせを見て、感慨にふけるカール。
旅の途中、息子に「夏休みが終わったら普通の生活に戻れ」と言ったのですが、やっぱり寂しさが勝ります。
その気持ちを息子に告げ、週末だけ一緒にフードトラックで販売をすることに。
かわいいお父さん。
これまで息子に対して、「父親である自分」を演じようとしてきた彼が、息子を対等に見て、自分の想いを伝える。
フードトラックの旅で得たものが彼にそうさせたのでしょう。

流れでお母さんもついてきて、みんなで一緒に屋台販売をします。
で、一緒に販売している時に例のあの評論家が来るんですが、結局のところ、彼はカールの料理のファンなんですよ。
「誰かに言われるままに作るのではなく、自分の思うままに作る君の料理は美味しい」と伝え、自分が投資するから店を開けと提案。
そしてお店のオープン記念パーティで映画は幕を閉じます。
ラストシーンの幸せこそがジョン・ファブローの望んだもの
最後はご都合主義すぎるだろってくらいの怒涛の幸せ展開。
けどこの溢れんばかりの幸せこそ、ジョン・ファブローの思い描く「自分らしく生きることの素晴らしさ」なのではないでしょうか。
終わり方は賛否両論ありそうですが、僕は好きです。
わかりやすいストーリー展開で、誰が見ても楽しめる作品。
それでいて、監督であるジョン・ファブローの経歴を知るとより深みの出る映画です。
SNSをシナリオのメインに置いて、そのネガティブな側面、ポジティブな側面の両方を描いているのも、現代の抱える問題に触れているようで面白いですよね。
道具は使い方を間違えると自分に牙を剥くこともありますが、正しい使い方をすればちゃんと自分を助けてくれるわけです。
この映画を一度見たことのある方も、ぜひもう一度見てみてください。
また違う見方ができると思います。
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